なぜ子どもについて語るのか
私自身は個人営業のカウンセリングオフィスともしび以外の場で、子どものカウンセリングをする機会があります。
(*現在カウンセリングオフィスともしびでは、未成年の方のカウンセリングは行っておりません)
日本はよく、「まだまだ心理カウンセリングが発達途上である」、「他国と比べて気軽にカウンセリングを利用することができない」、「恥ずかしがり屋の人が多い、文化的な背景も心理カウンセリングの利用率に関係があるのではないか」等言われており、どれも事実であると思います。
しかし、それでもなお現場で心理カウンセラーとして働いていると、心理カウンセリングを求める人は必ずいますし、これからも必要な支援・サービスであると実感します。
私は大人にも子どにもカウンセリングの中で会う機会がありますが、子どもの心理カウンセリングの意義について語り、悩みや問題を抱える子どもと、その親にとってカウンセリングを受けるハードルが低くなるように努める義務が心理カウンセラーとしてあるのではないかと思っております。
率直に言って、今の時代は子どもが大変なことになっていると思います。
子どもが大変とはどういうことか
私の知る限り、私が子どもであった時と比較して子どもの不登校の数は増えていると思います。
「1つのクラスに数人は私以外にも学校に来てない人がいるよ」という言葉を、もう何人もの子どもから直接聞いています。
また、現に今虐待を受けている子どもと会うことも増えてきました。
このような子どもたちに対して、心理カウンセラーとして直接的に介入出来ることはあまり多くはありません。虐待であると判断できる場合には児童相談所に報告をすることがありますが、それ以上のあまり直接的な干渉は心理カウンセラーとして悪手であることが多いです。
心理カウンセラーとして子どもにできることは、本来の役割通り話を聞き続けることはもちろんのこと、
今抱えている問題や、受けている被害、辛い思いに対してどのように関わっていくのか、そういったことを一緒に模索していくことです。
また、後述するように子どもの母親に対してアプローチをすることも重要でしょう。
特に、子ども時代に親などの身近な養育者に虐待を受けるなどして傷ついた子どもは、一生その傷を抱えていくことになります。そのような癒えない傷、見えない傷は、生涯を通してその子どもに深刻なダメージを与えます。傷つけられた子どもは簡単には人を信用できなくなるかもしれませんし、もう傷つかないように様々な状況を回避して社会適応に困難さを示すかもしれません。
そういった、幼少期において、(特定の)養育者との間の愛着関係が何らかの理由で形成されず、情緒や対人関係に問題が生じる状態のことを「愛着障害」と言います。
(*愛着障害に関しては別のコラムにて詳しくまとめています)
愛着障害は連鎖します。
子どもの頃の傷つき体験を引きずった子どもがいつしか親になり、自分の子どもに対して自分が傷つけられてきたことと同じことをしてしまうことがあります。そうすると、その子どももまた愛着障害になるリスクは高まります。愛着障害の人の成育歴や、親に関する情報を聞いていくと、その親もまた愛着障害なのではないかと思わされることは非常に多いのです。
したがって、今目の前にいる傷ついた子どもに向き合うことが、その子どもの将来までをも守ることに繋がると思うのです。
子どもの問題は先延ばしにすることはできません。
子どもがカウンセリングを受ける時
心療内科・精神科、カウンセリングなどの相談機関への最も多い子どもの来談理由は「不登校」ではないでしょうか。
そしてそのほとんどの場合は、子どもの様子を心配した親が心療内科・精神科に子供を連れて行ったり、学校の先生やスクールカウンセラーに相談したりすることが始まりになると思われます。
私自身が不登校の子どものカウンセリングをする時は、非常に親近感を覚えることが多いです。
なぜなら、その当事者である子どもの言っていることが真に迫っていて、納得できることが多いためです。例えば、
・学校の授業が面白くない、勉強が楽しくない
・何だか分からないけど学校が怖い、辛い
・集団の中に入っていると居心地が悪い、実際に身体の調子が悪くなってくる
などの不登校の理由を話す子どもは多いです。
基本的に、子どもは素直ですから、余計な説明はしません。ただ素直に感じたことを教えてくれます。
特に上述の「なんだか分からないけど学校が怖い、辛い」「集団の中に入っていると居心地が悪い」という気持ちはよくわかる気がします。
そのように子ども達が感じること自体は、正しいことなのではないかと人として共感します。また、実際に学校に行けなくなる程に強い不快感を覚えるというのは、非常に繊細な感性を持っていると驚かされます。
不登校の子どもと話していると、本当に細かいところまで気を遣っていて疲れている。また、言葉にできない雰囲気を敏感に察知して疲れている。人にはなかなか理解されにくい特殊な趣味や技能を持っている子も多いようです。
そういった子どもをみると自然に応援したくなってきます。
ごく率直に言って、不登校の子どもには理解者が必要なのだと思います。
一人でも理解者がいるということは、ずいぶん勇気の出ることです。どうも、心理カウンセリングの役割はこの辺にあるようです。
子どもの心理カウンセリングと大人の心理カウンセリングはどう違うのか
心理カウンセラーではない子どもの親にとっては「子どものカウンセリングでは一体どういうことをするのか」「遊ぶことにどういう意味があるのか」が分からず、子どものカウンセリングについて不思議がられることがたまにあります。
根本的には、大人の心理カウンセリングも子どもの心理カウンセリングも同じであると思います。
両者ともに、カウンセラーが「治療的態度」を保って接することによって、内面的ないし外面的な問題が解決に向かうことを目指すものです。
この治療的態度というものが、なかなか口では説明しづらいところなのですが、要するに普通の対応とは異なる治療促進のためのコミュニケーションのことです。
治療的態度は、明確な言葉によって表現することもできますが、言葉だけでなく、表情や動き、アイコンタクトや笑い方など様々な態度によって示すこともできるでしょう。
大人のコミュニケーションは主に言語的なものに頼る傾向が強いのに対して、子どものコミュニケーションはもっと非言語的な態度に頼る傾向が強く、子どもとのカウンセリングが主に遊びを通して行われることはごく自然なことであるわけです。
子どもの遊びの中にはある種の象徴的な表現があり、非言語的な様々な工夫があります。それをカウンセラーがうまく読み取り、受け止めることによって、子どもは安心し、さらなるコミュニケーションに発展していきます。
母親が治療的態度をとるということ
不登校や家庭内での家族の病理の増加、母子関係の問題、家庭内暴力や虐待などの問題は世代を超えて連鎖しています。
こういった数々の問題について、心理カウンセリングでどのように対処するのか?を考えるのと同じくらい、
「家庭で母親や父親がどのように関わっていくべきか?」という視点もとても重要であると思います。
東山(1984)は特に家庭での母親の子どもへの関わり方が重要であると考えています。母親がいわゆる普通の親がするような対応をするのではなく、カウンセラー的な態度をとることが、不登校の子どもの改善に大きな一助となります。
「登校拒否児はなぜ学校へ行かないのか?」答えは簡単である。病気だから行けないのである。病気が治れば、たとえ、親や教師や周囲の者が、行かなくてよいと言っても、本人は、身体や心がむずむずして、行きたくなる。人間誰だって、40度の熱があれば、学校へ行きたくても、仕事に行きたくてもいけない。~
東山紘久(著) 『母親と教師がなおす登校拒否 母親ノート法のすすめ』 創元社 1984年 17ページ
このように東山(1984)は、登校拒否を病気として捉え、だから学校へ行けないという状態は当たり前であると言っています。また、この当たり前が身体的な病気であれば、母親は看護的・献身的な対応を子どもに対して自然にすることが出来るのに対して、登校拒否などの分かりにくい病気の場合には、身体的な病気の時に自然にできていた対応ができなくなることが問題であるとも指摘しています。
また、東山(1984)は会話をSパターン(標準パターン)とTパターン(治療的パターン)とに分け、精神的な悩みを抱えている人との会話を治療的にするには、Tパターンでの会話が必要であると説いています。
要約すると、Sパターンはいわゆる普通の会話であるが、Tパターンは出来るだけ話し手が「快」の気分になるように(あるいは「不快」が減るように)応答を工夫した会話ということになります。
Sパターンの会話は、母が話し、子どもが答えるような会話で、母親主導型の会話パターンである。
東山紘久(著) 『母親と教師がなおす登校拒否 母親ノート法のすすめ』 創元社 61~62ページ
Tパターンは、Sパターンと逆で、子どもの方が話し、母親がそれに答えるような会話で、子ども主導型の会話パターンである。
母親主導ではなく、子ども主導であるということを意識するだけでも、大分子どもにとっての「快」が守られるのでしょう。
一つ、TパターンとSパターンについて、三和田なりの例を考えてみたい↓
【Tパターンの会話例】

お母さん。なんか今日は頭痛いし、お腹も痛い気がする

そうなんだね

学校なんだけど…

うん

うん…行きたくない、かなあ

そうかあ
【Sパターンの会話例】

お母さん。なんか今日は頭痛いし、お腹も痛い気がする

えっ。この間もそう言って学校休んだじゃない。今日も休むの?

だって、本当にお腹痛いんだもん

そんなに休んで、勉強についていけなくってもお母さん知らないから。そんなことよりまず、熱だけ測りましょう

熱なんていいよ。とにかくお腹痛いんだ。

いいから!お母さんもこの後仕事なのよ!
・・・・・・
どうでしょうか?
かなり極端な例ではありますが、
TパターンとSパターンでは全く違うことが分かると思います。
まず、Sパターン、母親が主導の会話パターンでは、母親のセリフや母親の気持ち、考えが全面的に押し出されているのが分かると思います。これは日常的にどの家庭でも行われている、いわゆる「普通の」会話パターンなのですが、
不登校の子どもにとっては、自分の不調のサインを母親に伝えることが出来ない消化不良の会話になってしまっています。
一方、Tパターン、子ども主導の会話パターンでは、Sパターンと比べて母親のセリフがかなり少なくなっているのが分かりやすい特徴です。一見すると、Sパターンよりもむしろ「不自然な」会話に見えるかもしれません。あまりにも母親が何も言わなすぎるというか。しかし、時にはこのような子ども主導の会話もパターンとして持っておくのは有用ではないでしょうか?
カウンセリングをしていても、やはりカウンセラーは一般とは異なる会話のパターンを持っています。相手の話を聞くことを重視すると、自ずとカウンセラーの言葉は少なくなっていきます。
しかし、根底には常に「相手の気持ちを理解したい」という思いがベースとしてあるのであって、「言葉を減らすことが相手を理解することにつながる」というわけではありません。
愛情は技術ではなく、自ずからなるものであると思います。
「子ども主導の会話は甘やかしになるのではないか?」という疑問について
「子ども主導の会話」や「子どもにとって快となる会話」「子どもにとって不快の少ない会話」と言うと、
「それでは甘やかしになってしまって、よくない態度を増長することにならないか?」と思う人もいるかもしれません。このような疑問に対しても、東山(1984)は答えています。
皆さんの中で、喜ぶことや愉快になることをしてもらって、増長する人がいるだろうか。おそらくいないと思う。子どものことを考える場合、自分ならどうかと、立場をかえて考えてみるとよくわかる。
いくつになっても甘さはほしいものである。甘さと甘やかしは、似てはいるが、全く異なるものである。甘さは、本人が望むことを聞くことである。甘やかしは、こちらの意図を通すために、相手の望みを聞いてやることである。学校に行ってくれたらと思って、子どもの要求を通すことは、甘やかしになる。本当に、子どもの気持がわかって、それを聞いてやることは、甘やかしにはならない。
東山紘久(著) 『母親と教師がなおす登校拒否 母親ノート法のすすめ』 創元社 82~83ページ
「甘やかしは、こちらの意図をとおすために、相手の望みを聞いてやることである」は本当に良い指摘であると思います。
真の愛情は無条件のものです。子どもの気持ちが本当に分かっていれば、子どもの言うことを聞いて、子どもが快になることをすることにはためらいがないはずです。
そして、子どもの気持ちを本当にわかるためには、子どもの話をよく聞く必要があります。こちらの気持ちばかりを押し付けていては、子どもも言いたいことを言えなくなっていきます。子どもが言いたいことを言えなくなってしまったら、どうやって子どもの気持ちを分かれば良いでしょうか?
子どもにとって最も身近で最良のカウンセラーは母親である
私はそう思います。
子どものカウンセリングをする機会がありますが、子どもの抱える問題に向き合い、解決するためにはカウンセラーだけでは足りないと感じることがあります。
悩みを抱える子どもを持つ母親自身が、その対応について改めて見直しをして、変えられるところを変えていくと、子どもも一緒に変わっていきます。
東山(1984)は、「母親ノート法」という方法を使って母親のSパターンの会話を見直し、Tパターンの会話を増やす治療法をその著書の中で紹介しています。
私自身は、ここまで体系化した方法を悩みを抱える子どもを持つ母親に紹介したことはありませんが、子どもがどうしたら立ち直っていくのかを母親と一緒に考えることは、今後もしていきたいと思っています。
参考・引用文献
・東山紘久(著) 『母親と教師がなおす登校拒否 母親ノート法のすすめ』 創元社 1984年
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