境界性パーソナリティ障害

お知らせ情報

うつ病はもちろん双極性障害と間違われやすい病気の1つですが、それ以外にも、
「境界性パーソナリティ障害」や「統合失調症」も双極性障害と間違われやすいです。

また、幼少期からの養育環境が粗悪であり、愛着形成に問題があると、発症リスクが大きく上がります。
つまり、境界性パーソナリティ障害は愛着障害とも密接な関係があるのです。

このトピックでは、境界性パーソナリティ障害について説明していきます。

そもそもパーソナリティ障害とは何か?

性格の著しい偏りのために本人あるいは社会が悩むものを人格(パーソナリティ)障害(性格異常あるいは精神病質)と呼ぶ。従来は生来性のものであると言われてきたが、現在ではより環境因が重視されるようになってきた。

川瀬正裕(著)、松本真理子(著)、松本秀夫(著) 『心とかかわる臨床心理 基礎・実際・方法 第2版』 ナカニシヤ出版、2006年

上述のように、性格の偏りは単に生来性のものではなく、環境因も関わって生じるものであります。
環境とは社会的な環境や周囲の人、養育環境など様々な要因が含まれています。
性格の「著しい偏り」とは、その人が所属する社会から著しく離れた認知や行動の様式が見られる事を意味しています。
簡単な言葉に言い換えてしまえば、ある社会の中でとても目立った考え方や行動をする人、ということになります。
その著しい偏りがあるために、本人あるいは周囲の人々が悩まされる事態に陥って初めてパーソナリティ障害であると言えます。

境界性パーソナリティ障害の特徴とは何か

境界性パーソナリティ障害は、様々あるパーソナリティ障害の一種です。

境界性パーソナリティ障害も、所属する社会からの性格の著しい偏りが見られます。
症状の現れ方は様々ですが、大きく3つの要素に分けられます。
すなわち「感情コントロールの障害」「行動コントロールの障害」「対人関係の障害」の3つです。

【感情】

・見捨てられ不安
・分離に対する怒り
・感情の不安定さ
・自己否定的感情

【行動】

・操作的な自殺企図
・衝動性(行動の抑制が難しい):アルコール乱用、薬物乱用、性的逸脱、自傷行為など

【対人関係】

・不安定な自己感
(自己同一性障害)
・空虚感
・不安定な対人関係

まとめると、
感情のぶれが激しく、周囲の人が驚くような極端な変化を見せることが特徴の1つです。
急に怒りを爆発させたり、自分の身体を傷付けるような危険な行動をするなど、周囲の人は動揺させられることが多いです。
このように、「感情」と「行動」のコントロールが難しく、その結果として「対人関係」にも悪い影響を及ぼしがちになります。

行動の特徴

境界性パーソナリティ障害では、衝動的ないし予測不能の行動がしばしばみられます。
それらは多くの場合自己破壊的であり、周囲の人を振り回し、驚かせます。

・浪費
・性的逸脱
・ギャンブル
・薬物、アルコール
・過食
・自傷行為

などなど・・・

また、上記の行動の中に、
他の人を振り回し、巻き込み、不適応的なやり方で自分への注目を集めるような、「お試し行動」も含まれます。

お試し行動

お試し行動とは文字通り、自分のする行動によって身近な他者がどのように対応してくれるのかを試す側面の強い行動パターンの一つです。

試された側の人は、しばしばその行動に違和感を覚え、どのように対応すれば良いのか悩まされることになります。

境界性パーソナリティ障害の人は、自己概念や自己同一性(アイデンティティ)の形成が不安定であり、他者からのゆるぎない一定の行動をもらうことによって安心する場合が多いです。

つまり、「自分が何をしても相手は自分を愛してくれる」という保証と安心が欲しくて自己破壊的な行動をする場合、きわめて境界性パーソナリティ障害の人のお試し行動に近いと言えるでしょう。

境界性パーソナリティ障害の人は、確固たる私が確立されていない場合が多いです。だから、他者の一貫した行動によってしか精神的な安定が得られにくいとも言えます。裏を返せば、他者が自分を愛しているのか愛していないのか、好きなのか好きでないのか、、、曖昧であやふやな態度を取っているのが見受けられると、途端に不安になってしまいます。

お試し行動は、操作的な行動と捉えることも出来ます。自分の要求が満たされるように、あらゆる手段を使って他者を操作します。自分の満たされない気持ちや感情を他者の振る舞いによって満たしてもらおうとするわけですが、当然、他者はいつも思い通りになるわけではありません。

たまに自分の思惑と外れた行動を他者が取ると、より自己破壊的な行動をとって他者の注意をひくことにもなりかねません。このようなお試し行動が成立するためには、ある種の知的水準の高さも必要ですが、いずれにせよ、最終的には対人関係のもつれ・こじれに発展してしまいます。

理想化とこき下ろし

ある時には他者を過度に理想化し、あがめ奉り、褒めちぎったかと思うと、
他者の行動・態度のいかんによっては、他者を過度にこき下ろし、蔑むといったような、2極化がみられます。

このような「理想化とこき下ろし」の態度の背景には、前述のような

●自己概念・自己同一性の形成不全
●一人の人の中に良い面と悪い面が同席することを認められない認知的な問題

が潜んでいます。

「私は私である」という自己同一性の形成が不十分なため、他者の一貫した行動によって、一貫した自分を成立させたいのです。

しかし、それはかなり難しい試みです。
常に一貫した行動をすることが出来る人などいないのですから。。。

自己同一性の障害は、色々なことへの自信を喪失させます。
友人関係、仕事、恋愛、生涯についての見通しなど、、、
「自分なら上手くやれる」、「何とかなっていく」と思いにくいです。

このため、不安定な感情に溺れ、あるときには他者に依存し、より自信の喪失への悪循環にはまっていってしまいます。

慢性的な孤独感と空虚感

満たされない気持ち、といった方が分かりやすいでしょうか。
境界性パーソナリティ障害の人には常にこれがあります。

ここまで読んできてもらえると分かってくると思いますが、境界性パーソナリティ障害の人の困難には、常にその背景に自己同一性の障害が潜んでいるようです。

安心感や満たされた気持ちというのは、「自分」があってのものだからです。
本当の安心感は、他者によってもたらされるだけの偶然性を帯びたものではありません。

自分がいて、自分はこのように(振る舞おうと思えばいつでも)振る舞うことが出来る。
自分の振る舞いによって、一定の結果を出すことが出来る。

そういったある種の自信、確固たる自分の存在が、本当の意味で人を安心させます。

境界性パーソナリティ障害の人は、どこか人と馴染むことができず、寂しい思いをしていると思われます。

周囲にたくさんは人はいるのに、どこか一緒ではない感じ。
明かりの付いた夜の町の中で、自分もその中に入れてもらいと思いながら、一歩踏み出せずにそぞろ歩くような寂しさ。

こういった気持ちは説明しづらいものです。よって、人に分かってもらいにくいものです。

人に分かってもらえないと、人はより孤独を感じるのです。

境界性パーソナリティ障害の人は、このような孤独感に耐えることが出来ず、常に誰か他の人と一緒にいるための努力を払う傾向があります。

良い部分も悪い部分も両方あって、それでも丸ごと受け止めてもらえるような、分かり合える経験が、境界性パーソナリティ障害の人には必要なのです。

表面上の社会適応能力

ここまで、境界性パーソナリティ障害の人の行動特徴や、アイデンティティの問題について触れてきました。

境界性パーソナリティ障害の人は、一見すると社会適応が良さそうないわゆる「普通の人」であることも少なくありません。

「境界」という言葉に表されるように、境界性パーソナリティ障害はこれまで「精神病」と「神経症」の間(境界)であると先人達は論じてきました。

また、境界性パーソナリティ障害を「精神病」と「正常」の間(境界)にあるとする考え方もあります。

上述してきたような病理性も数多く抱えつつも、いわゆる正常な部分も併せ持っているところが特徴的です。

境界性パーソナリティ障害の人は、社会への参加にももちろん興味を持っていますし、社会的なやり取りや対応も人並みにしっかりしていることが多いです。

知能テストなどを行っても、あまり逸脱した特徴を示すことも多くはありません。したがって日常生活にもさほど支障をきたすこともありません。

それでも、「正常と精神病の間にある」と言う時、単に正常では収まりの付かない「何か」があるということです。

このようなたとえはもしかすると正しくないのかもしれません。

テニスをやっていると、打ったボールがネットにかかり、自分側のコートか、相手側のコートか、
どちらに落ちるか分からないような状況になることがあります。

そこには運も関わります。危うい状況です。どうなるか分からない。

境界性パーソナリティ障害も、そのようなどちらにころぶか分からない、ひやひやするようなまさに境界線のちょうど上に位置しているようなイメージがあります。

正常か、それとも。

境界性パーソナリティ障害にはまだ十分に分かっていないこともあります。年齢を重ねるにつれて、軽症化していくとも言われています。

カウンセリングでのサポートも簡単とは言えない場合が多いです。精神科・心療内科に行っても、他の疾患として診断されることもあります。

非常に複雑なパーソナリティ障害であると思いますが、少しでも心当たりのある方、あるいは、
身近な人でもしかしたら境界性パーソナリティ障害かもしれないと思い当たる人がいる方は、
どのような関わりをしていくべきなのかを少しでも学んでいって欲しいと思います。

双極性障害と似ているところ

双極性障害と似ているのは、

  • 「衝動性」
  • 「行動の抑制が難しい」
  • 「不安定な人間関係」

のあたりでしょう。

衝動性や行動抑制の難しさは躁状態に顕著ですし、その危険顧みずな行動や、普段は見られないようなおおらかさや大胆な行動の出現は、多くの人を驚かせ、時にトラブルを起こすこともあります。
むろん、双極性障害の場合は、これらの似ている特徴が、躁状態の時の一時的なものであるということに留意する必要があります。

境界性パーソナリティ障害治療のポイント

感情の不安定さや衝動的な行動、不安定な自己感、慢性的な空虚感など、様々な症状によって、境界性パーソナリティ障害の人は「目標」の達成が困難になってしまいがちです。
ここでいう目標とは、個々人が当たり前に持っている夢のようなものです。
「~になりたい」「~をしたい」といった、人間の持つべき高次の欲求です。

パーソナリティ障害の人は、努力をコツコツ積み重ね、安定して必要な行動を重ね、やっとの思いで目標を達成する・・・というような「達成感」を味わい損ねてしまう人が多いように感じます。
あるいは、自分が何者かがつかみづらく、したがって「何になりたいのかも分からない」という方も一定数いるのではないでしょうか?

こういったことから、治療のポイントは、
感情のコントロールと行動のコントロールの術を学び、
不安定になりがちな対人関係を出来る限り安定させ、
どんな小さな目標でも良いから掲げて、それに近づくための努力を少しずつ積み重ね、
目標を達成した時の「達成感」を味わうこと、、、
にあるのではないでしょうか。

どんな小さな目標であっても、それを達成することで、人は自信を持つことが出来ます。
自信を持つ事で、「自分」という観念も揺るぎないものになってきます。
なぜなら自信とは、「自分には出来る」という感覚の事だからです。
「自分には出来る」と思っているそこには、確固たる「出来る自分」が存在しています。

不安定な自己同一性を持つ境界性パーソナリティ障害の人にとって、
「出来る自分」を確保することはとても大事な事だと思えます。

過去の養育者との関係性を振り返ることも治療の重要なポイント

境界性パーソナリティ障害の患者で、過去の養育者との関係性が不安定である場合は多いです。

養育者から愛情を感じられない環境で育ってきた子どもは、愛着形成に失敗してしまいます。

愛着の形成に失敗すると、

大人になってからも自身の不安定な感情に悩まされたり、

人との程良い距離の取り方が分からない、接し方が分からないといった人間関係上の困り事を抱えたり、

様々な問題に悩まされ続けます。お気づきの方もおられると思いますが、これらの問題は、境界性パーソナリティ障害でお悩みの方の特徴とも一致します。

したがって、過去の養育者との人間関係を振り返り、

愛着形成をやり直すことにも治療の視野が広がっている治療者と、

愛着形成の問題に少しずつ取り組んでいく必要があります。

*過去の養育者との関係性に問題を抱えている方は、愛着障害のトピックも参考にしてみて下さい。

様々な治療法

長い目で見てくれる医師を見つけ、薬物療法を受け、じっくりと治療に取り組むことが重要です。
心理療法としては、
「支持的心理療法」「認知療法」「対人関係療法」「精神分析的精神療法」「弁証法的行動療法」などが具体的には挙げられます。

しかし、これらは単なる治療法の一例であって、実際の臨床場面では「~療法をすれば治るだろう」と簡単には言えないのが実状です。

大切なことはやはり、長く、根気強く付き合ってくれる医師やカウンセラーと、試行錯誤しながら治療に取り組むことだと思います。

カウンセリングを受けてみたい方へ

ご予約こちらから、または直接お電話(090-6079-0783)からお願いします。

・「どんなことをするのか分からない」「直接具体的な内容を聞いてみたい」「カウンセラーの声を聞いてみたい」という方は、まずはお気軽にお問い合わせください。
お問い合わせこちらから、または、直接お電話(090-6079-0783)からでも対応可能です(不在の場合は24時間以内に折り返しのお電話をします)

引用・参考文献

Follow me!

コメント

PAGE TOP
タイトルとURLをコピーしました