夢とは何か
今回のコラムでは「無意識」や「夢」について考えたいと思います。
私自身心理カウンセラーとして、心理学に関連する者として、またそれ以前に一人の夢を見る存在として、夢には子どもの頃からずっと興味を抱いてきました。
人の夢を聞いてもその意味するところの全容は私には分かりませんし、私自身の夢でさえよく分からないことがほとんどです。
しかし、何でもかんでも頭で分かれば良いというものでもありません。
夢は見ることそのものに意味があったと言ってもいいようなものもあります。見た後に何かが分かったような気がする夢を見たことが誰しもあるはずです。現実的には何かが解決したわけでもないのにも関わらず、心がすっきり現れたような気分になる夢を見たことがあるでしょう。
その反対に、夢を見ることによって不快な気分になったり、ある種の嫌な予感にさいなまれることも同時にあることでしょう。
夢は、見ることによって私たちに何かしらの影響を与えています。それはどこからともなくやってきて、勝手に訴えかけて来ます。それは単なる記憶の反復ではありません。
望んだ夢を見たり、夢を思うままにコントロールすることは不可能です。部分的にコントロールすることが出来たとしても、必ず意図せぬ動きをする部分があるはずです。後述するように、夢にはそれ自身に「自律性」を持っているようです。
夢とは何か?夢とは単なる思考やイメージの寄せ集めに過ぎないのか?
これらの疑問に答えることは非常に困難です。
夢とは無意識的なこころの活動の直接的な表現です。
C・G・ユング(著)、横山博(監訳)、大塚紳一郎(訳) 『ユング 夢分析論』 みすず書房 2016年 4ページ
では無意識とは何か?それがあるかのように当たり前に扱うのは心理師の、いや世間一般の人々の多くが共有する前提のようです。
ユング(1999)は無意識について以下のように述べています。
無意識とは私が知っていることすべてであるが、そのすべてを私は今この瞬間に考えているわけではない。
またそれは私がかつて意識していたが今は忘れてしまっているすべてである。またそれは私の感覚によって捉えられてはいるが意識によっては気づかれていないすべてである。またそれは私が意図しないし気にもとめていないこと、すなわち無意識のうちに感じ、考え、記憶し、欲し、行うことすべてである。またこれから起こることすべて、すなわち私の中に準備されており後になってはじめて意識化されることのすべてである。
C.G.ユング(著)、林道義(訳) 『元型論(増補改訂版)』 紀伊國屋書店 1999年 316ページ
乱暴に言ってしまえば、意識していること以外のすべてが無意識ということになります。
そして、意識以外の領域がいかに広大で深遠であるかということをユングは強く意識していたと察せられます。
非常に面白いのは、この無意識が私の意図しない動きをとったり、まるでそれ自身が意思をもっているかのように振る舞う性質を持っていることです。
それは私の意識していること以外のすべてであるにもかかわらず、私たちの人生・生命の一部であるかのようにも感じられます。
無意識の自律性
人は時に分かっちゃいるけど止められない行動に支配されることがあります。
- 食べるべきでないと分かっているのに食べてしまう
- 言うべきでないと分かっているのに言ってしまう
- するべきでないと分かっているのにしてしまう
東山(2002)は、「わかっちゃいるけどできない、やめられない行動」を神経症的行動として、なぜ人のような知性的存在が神経症的行動をしてしまうかについて以下のように述べています。
人間は自分の意識できている考えだけで行動しているわけではないからです。
人間の意識している領域は、比喩的にいえば、海面から出ている氷山の部分で、残りのより大きな部分は海面下にあるのです。臨床心理学者は、海面下の部分を「無意識」と呼んでいます。
人間の行動は意識している部分だけでなく、この無意識の影響によって左右されているのです。自分の思うとおりに行動できないのは、無意識がそれを妨げているからなのです。
東山絋久(著) 『プロカウンセラーの夢分析 心の声を聞く技術』 創元社 2002年
無意識がそれを妨げている、という一文が私としては最も重要なポイントであるように思えます。
この一文は、無意識がまるで意識とは独立してある程度自律性を有していると捉えられる文章ですが、まさにその通りであるのです。
夢がその簡単な例です。
私たちは夜眠っている間、夢の中の要素を自由にコントロールすることが出来ません。夢の中に主人公として出てくる私の行動でさえも、「なぜそんなことをしているのか?」と目覚めた後にびっくりしてしまうようなことがあります。
夢の中に出てくるあらゆる登場人物、動物、すべてのもの、自然物などが、それぞれ自律的に動いています。
無意識の自律性に関して、私自身が見た夢も一例として挙げたいと思います。
2016年某月の夢
「私は都会の中の高いビルの側に立って何気なく空を見上げている。飛行機のような物体が空を飛んでいるのが見える。私がその物体に気づいたと同時に、その物体が私に気づいたことを直感する。その物体は飛行機型の姿からロボットのような姿に空中で変形し、進路を大きく変えて私の方へ猛スピードで向かってくる。ビルのすれすれのところを一気にかけおり、私に向かってくる。私は大声で叫んだ」
私はこの夢を見た時に、夢の中と同様、現実においても大声で叫んで目を覚ましました。まるでアニメか漫画のなかのワンシーンのように、恐ろしい夢を見て目を覚ましました。
もし無意識に自律性などなく、私の意識によってコントロールできるものであるとすれば、このように自分で自分を驚かし、びっくりして目を覚まさせる必然性などどこにあるでしょうか?そのような必然性などないでしょう。
人が驚かされるのは、常に自分(意識)以外の何か、自分のものとして統合されていない何かによるのです。
「わかっちゃいるけど止められない行動」は、夢で私たちが自分自身をコントロールできていないことがあるのと同じようなことが、現実でも起こっているものとして解釈できます。
私たちは自分がまるで意識的な存在であり、すべてをコントロールできていると思い込んでいるかもしれませんが、全くもってそうではないのです。
それは、紫外線が目に見えないのと似ています。紫外線は目には見えませんが、そこ・ここにあるものであり、私たちに常に何かしらの影響を与えています。
目に見えないからと言って、ないことにするわけにはいかないのです。
これは、無意識にも同様のことが言えるようです。意識できていないからといって、ないことにするわけにはいかないもの、それが無意識であるようです。
カウンセリングで夢の報告を受ける時
私自身は意識して夢を心理療法の一環として取り上げることはほとんどありません。
しかし、時に思いがけないタイミングで、クライアントさんの方から夢の報告をごく自然な流れでされることがあります。
そのような自然な流れでの夢の報告については、当然ながら興味を持って聞くものであります。
そして、実は夢の報告に限った話ではないのですが、以下に記すように原因だけでなく目的にも着目して話を聞く姿勢が大事であることにしばしば気づかされます。
「原因」よりも「目的」に着目する
心理カウンセリングにおいては、(立場によっても異なりますが)「原因」や「因果関係」だけにとらわれないようにしようとする態度が重要です。
東山(2002年)は夢を「夢見手に対する手紙」としており、夢を見る人がどのように見た夢を捉え、受け取るのかの態度によって夢からのメッセージ(手紙)の内容も異なってくることを強調しています。確かに私たちの態度が夢の内容に少なからず反映されることは確かであり、その点では因果論的な視点もかかわっていますが、夢が私たちにある種の自立性をもってメッセージを送り込もうとしているという点においては、「何のためにその夢を見たのか?」と目的論的な視点に切り替えて考えることもできるでしょう。夢は無意識の自分からのメッセージであり、自ら気づくことが出来ない領域は全く自分の意志とは離れた自立性によって動くことがあるようです。
以下のユングの指摘も目的論的な視点を持つことの重要性を端的に示しています。
医師の注意力はいつでも「何が原因で」と問うばかりで、それと同じくらい本質的な「何のために」という問いは気にも留めません。
C・G・ユング(著)、横山博(監訳)、大塚紳一郎(訳) 『ユング 夢分析論』 みすず書房 2016年 9ページ
クライアントの症状を聞くと、内科的な検査をしたにもかかわらず原因が特定できず、なぜその症状が起こっているのか見当もつかずに途方に暮れるということがよくあります。
その場合にも、その症状が「何のために」起こっているのか?と問いの仕方を切り替えることは有用でしょう。
夢についても同様です。
ただ「今日は色々仕事で忙しかったからあんな怖い夢を見たのだろう」と因果論でとらえるだけでなく、「何のためにあんな夢を見たのか?」と問いを切り替えることによって新しい切り口で夢を見つめることが出来るでしょう。
今現在何かしらのトラブルに巻き込まれている人も、ただ何となく人生が辛くて前向きになれない人も、心理カウンセラーである私は時に心の中で問います。「何のために」「何を指向して」そのような目に現在進行形で遭っているいるのだろうか?と。
因果論的な話の聞き方だけでなく、目的論的な話の聞き方をすることもできる場がカウンセリングの場であり、そのような聞き方をすることの出来る場は貴重なものであり、カウンセリングサービスの有用性の一つであると考えております。
参考・引用文献
・C.G.ユング(著)、林道義(訳) 『元型論(増補改訂版)』 紀伊國屋書店 1999年
・C.G.ユング(著)、横山博(監訳)、大塚紳一郎(訳) 『ユング 夢分析論』 みすず書房 2016年
・東山絋久(著) 『プロカウンセラーの夢分析 心の声を聞く技術』 創元社 2002年
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