最近出版した私の自叙伝『漁師、のち、カウンセラー』に具体的には載せていなかった資料をコラムとして紹介したいと思います
*心理カウンセリングやメンタル関連の情報とはおよそ関係のないコラムです。
とあるシーズンの漁師の勤務体系
私がお世話になっていた宮城県某所の漁師さんはシーズン毎に異なる漁を行っていました。
(*詳しくは『漁師、のち、カウンセラー』にて述べています)
①12~1月頃:タラ漁
②2~3月頃:イサダ漁
③4~11月頃:大目網漁
これらの漁を乱暴に「キツさ」「大変さ」でランク付けするならば、ぶっちぎりのナンバーワンが
大目網漁であると感じます。
本コラムでは、この大目網漁の一日のスケジュールや、何がどう大変だったのかを記していきます。
大目網漁のスケジュール
私がお世話になっていた船での、大目網漁のスケジュールは大体以下の通りです
(もちろん、天候や時期などによって多少異なる場合があります)

↑
この図が大目網のスケジュールの大体のイメージです。
これが出港してから1~2週間程続きます。
睡眠時間はバラバラで、3時間くらいしか寝れない日もあれば、不漁のためすぐに仕事が終わって6時間くらい寝ることの出来る日もあったりします。
しかし、大体いつも寝不足と疲労を抱えている感じでした。
以下、上図の①~⑨の過ごし方について解説していきます
①出港(漁の初日)~早朝まで
既に述べたように、大目網は長いと1週間以上ずっと海の上から帰って来る事が出来ません。
漁の期間のほとんどを海の上で過ごすため、常に揺れているのがデフォルトであり、陸に帰ってくるとしばらく陸が波打つように揺れており、非常に違和感を覚えます。

出港する時間はたいてい夜中の0時頃だったと記憶しています。
タラ漁とイサダ漁は日帰りの漁であるため、出港に関してはこの二つの漁の方が難儀しました。毎日0時に仕事を始めることを習慣化出来なかったからです。
0時に出て、まず船酔いになって、船の上を軽く掃除するなど雑務をこなし、しばらくは特にやることはありません。
直接親分に聞いたことはないのですが、早く出る理由は最も適切な時間に魚が最も獲れるポイントに移動するためだと考えられます。
したがって、0時から早朝までの間は親分が船の舵をとって移動するための時間であり、我々乗組員はその間寝床で眠っていました。
大目網の出港初日はそんな感じです。
②突きん棒(早朝~夕方まで)
漁場に着くといったん朝食を取ります。
私の乗っていた船では、ベテランの漁師の先輩が朝食の準備をしてくれていました。
本来朝食作りなどは下っ端が率先してやらなければいけないことなのでしょうが、この船では違っていました。私がやっていたのはせめて米を洗うことくらいで、この先輩が料理を作っている間は他の漁の準備をしていました。
というのも、この先輩の料理スキルが高くて、非常においしかったからだと思います。
船の上で腹が減っているということを差し引いても、先輩の作る料理はおいしかった。何十年もの間船の上で料理当番などしていると、自然と料理の腕も鍛えられたのだと思います。もちろん魚のさばき方も見事なものでした。
先輩の作る料理の中でもとりわけ私が好きだったのはポテトサラダとナスの炒め物、鰹のたたきとなめろうでした。漁が終わって残ったポテトサラダはボウルごと持って帰って全部食べていました。

話が逸れました。
突きん棒は、読んで字の如く銛で魚を直接突いて獲る原始的かつ分かりやすい漁でした。
直接突くためには、直接この目で魚(特にターゲットとするのはメカジキです)を探す必要があります。
目で探すと行っても、見渡す限り一面の海の上に「ちょこん」と飛び出ている魚のヒレを探すしかありません。私達人間の目では海中は直接見れませんから。
だから、目の悪い私にはこの量は苦痛でしかありませんでした。
日光は海面を反射して目を攻撃してきます。肌は一瞬で真っ黒に焼けました。
私には一匹の魚も見つけられませんでした。その代わり、何匹か銛でカジキを突くことには成功しました。この突いた時の快感は忘れられないものです。
③投網して夕食とって仮眠(夕方~20・21時頃まで)

投網という単語は聞き慣れないと思われますが、「とうも」と呼びます。
要するに、魚を捕獲するための網を海の中に設置する作業のことです。網をどんどん船の上から絡まないように投げ込むので、そのまま投網です。
投網のやり方も結構面白いのですが、私の描写力では上手く伝える自信がないため省略します。とにかく、他の乗組員との連携が重要であるということだけにとどめておきます。
夕食をとって、歯を磨き、サナギのように仮眠します。
ちなみに、お風呂はついていないので、真水を桶に組んで、頭からかぶるだけです。シャンプーは各自持参しています。身体は洗わず、私はボディーシートでふくだけでした。船の上では気にしませんが、絶対に臭かったと思います。
④網を回収しながら獲物を捕獲(約4時間~20時間以上)
親分が船のエンジンを起動させる爆音によって目が覚め、仮眠が終わります。
目覚めたらすぐに起きてカッパに着替え、デッキに集合します。
皆まだまだ眠たくて機嫌が悪いです。
私はタバコが吸えませんが、他の漁師さんはほとんど皆タバコを吸って親分の次の行動を見守ります。
仮眠前に投げた網を回収します。
回収しながら、もちろんその網には魚がかかっています。
サメ、鰹、カジキ・・・
こういったお金になる、食べられる魚はかかると嬉しいのですが、
大きい割にお金にならない魚はかかると皆ガッカリします。
魚を網から外すだけでも時間がかかります。
自叙伝に詳しいことは書いていますが、獲物がかかればかかるほど網の回収には時間がかかり、私が経験した最大の労働時間は27時間でした。
途中で一睡も出来ません。水分を取る以外はずっと働き詰めです。
辛かったですが、カジキなどの大物がかかると一瞬疲れが吹き飛ぶほど嬉しかったです。
反対に、不漁の時は一回の網の回収が4~6時間くらいで終わることもありました。この場合、労働時間は短いのですが、獲物が全然かかっていないことによって非常に虚しい気分になり、余計に疲れます。
不思議なものですね。
もちろん、もう二度と27時間のぶっ続けの労働はしたくありませんが、あの仕事を経験したことが未だに私のあらゆる仕事に活かされていると感じています。
改めて漁師の仕事を振り返ってみて
改めて、もやしっ子の私がよくまあこんなにハードな仕事をすることが出来たなと思います。
漁師の技術がまったくなかった私にとって、仕事に必死でついていくために必要なのは単に
「根性」
それだけでした。
今の時代、根性論は既に古くさく、どちらかというと嫌われる傾向にあると思われます。
しかし、私はこの古くさい根性論が大好きです。
もちろん、根性を他人に強要しようとは思いません。
もちろん、根性を私に強要する人は好きではありません(笑)
しかし、いつだって人が最後の最後に倒れずに踏ん張りを効かせることが出来るのは、
根性、人情、意地、美徳、、、
みたいなものたちのおかげであるとも心のどこかで思っています。
私は漁師の仕事をするまで、本当に自分の事を
「根性無しの根無し草、なよなよした弱い頭でっかちの無能」
だと思い込んでいました。自分で自分の事が嫌いで仕方がなかったです。
しかし、こんな私でも、船の上でゲロを吐きながら、疲れすぎて涙を流して、汗と塩水と魚の血で全身びしょ濡れになり、親分にくそみそに怒鳴られながら働くことで、
自分が根性無しなどでは決して無いことを発見しました。
単に根性という火のつけ方を知らなかったのだと思われます。
根性は疲れます。そして、人前であんまり「根性、根性」と言っていると笑われるし、嫌われるかもしれません。私も人前では言わないようにしています。
だから、根性は最後の手段です。
今の時代、ひょっとしたらまだ人間は、特に日本人は恵まれている方なのかもしれません。つまり、根性というものをあまり使う必要がないくらいには発展していて、便利で、文明的であるということです。
基本的に、今の時代は安定しているように見えます。
しかし、ちょっとしたことであっという間に落ちる可能性があると私は思っています。カウンセリングには、ちょっと足を踏み外して見えない落とし穴に転げ落ちてしまった人が来ます。
あるいは戦争が、あるいは地震などの天変地異が、現在の安定を一気にひっくり返してしまうかもしれません。
人間存在というのは本来、不安定で元々です。でもそれが嫌だからこんなに安定を作ろうと必死にやってきたんでしょうね。
根性は最後の手段です。しかし、いざという時には役に立つものだと思います。
私は一度、その火のつけ方を学んだので、今後はそれを必要とする人に出会ったら、一緒に考えて、教えられることは教えるようにしたいと思います。
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